8月29日から9月20日まで個展をやることになりました。
個展というのは不思議なもので、前回終わった時は「もうしばらくやりたくない」と思ったのに、時間が経つと「そろそろやりたいなあ」という思いがじわじわと募ってくる。
個展の概要については、twitterやインスタで告知をしているので、そちらを見ていただくとして、この記事では個展のタイトル「裏庭日記」の由来について少し書こうと思う。
展示のときに「ごあいさつ」みたいな感じで一緒に置いておいてもいいけど、あまり表に出して「ドヤァ!!」と言いふらすものでもない気がするし、ブログに書いておいて、気になった人が読んでくれるくらいの距離感がちょうどいいのかなと思った。
改めて、個展のタイトル「裏庭日記」は、自分にとって絵とはなにかという問いに対する、ひとつの答えみたいなものである。あくまで、ひとつの。
裏庭日記は、「裏」と「庭」と「日記」に分かれる。
このなかで、最初に浮かんだのが「庭」という言葉だった。
本格的に個展を意識し出したころに、新型コロナウィルスが流行し始めて、日々の生活が混乱し、暗い気持ちになることが多くなった。
しかし、自分でも驚くほど創作に影響が出ることはなかった。
絵の世界は、外の世界のあわただしさや感情の揺らぎとは関係なく、淡々と、ただそこに存在しているのだった。
思えば、創作行為は自分にとって現実逃避そのもの。
現実の世界から切り離されていることが大切で、絵の世界には、現実の世界で生じた色々な感情を持ち込まないようにしていた(もちろん自然に出てしまうことはある)。
距離感も特徴だ。
その気になれば絵の世界へは、紙と鉛筆と消しゴムを用意して、いつでも、すぐに、行くことができる。
外の世界とは関係なく、どんな時もすぐそこに存在していて、自分が足を運べばすぐに行ける場所。
それは自宅の「庭」のようなものではないかと思った。
ここで、「庭のこと」というタイトルが浮かんだが、あまりにもぼんやりし過ぎで、投げやりな感じもする。もう少し何かニュアンスがほしい。
次に「裏」という言葉が浮かんで、「裏庭」になった。
いくら絵のなかは現実と切り離されたもう一つの世界といっても、自分が存在しているのはこの世界である。
自分が死んでこの世界から消えてしまったら、絵を描くことができない。絵の世界にはもう行けない。絵の世界も、結局は現実世界によって存在が担保されているに過ぎない。
残念ながら、この主従関係をひっくり返すことはできない。
絵の世界はあくまでも現実世界に対して、従属的、副次的な存在でしかないのだ。
また、絵を描くことは自分にとって、ごく私的な行為である。
誰かのために絵を描いたり、何かの目的で絵を描いたりすることは、基本的にない。
単に面白いと思ったことを追求したり、気になったことを試したりするだけだ。
そうすると、絵の世界は「庭」といっても「裏庭」という表現がぴったりだ。
表があって初めて裏という概念が成立する。
自分のなかだけでひっそりと完結する世界。
こうして、「庭のこと」からもう一歩踏み込んで、「裏庭のこと」になった。
まだ少しだけもの足りない。「裏庭」というタイトルの個展も、いくつかあったし、もう少し何かほしい。
「裏庭で起きたこと」や「裏庭のできごと」なども思いついたが、何だか洋書のサスペンスもののようなタイトルで、いまいちだなと思った。
そこで「日記」である。
以前、通っていた学校の先生に「あなたの絵は日記を見ているみたいだ」と言われたことを思い出した。
言われてみると、絵とのかかわり方は日記と似ているなと思った。
例えば、絵を描かない期間というのは長くてもせいぜい2週間くらいだし、かといって毎日絵を描いているということもない。徹夜をして無理に仕上げたりすることもない。
生活に馴染んだこととして、何となく続けている。
あえて言えば、日記は書き手の感情などもつづる主観的なものであるらしく、絵の世界に感情を持ち込まないようにしているスタンスとは少し相性が悪いと思った。
「日記」に対して、「日誌」は起きたことだけを客観的につづるものであるらしく、「裏庭日誌」でもいいかなと思ったが、「日誌」という言葉は文字の印象が強すぎて、絵とはあまり馴染まないまない気がした。
そして「裏庭日誌」にしても、「裏庭日記」と間違えられるかもなと思った。自分だったら間違えそうだし。
語感も「裏庭日誌」よりも「裏庭日記」の方がいい。
何となく、「土佐日記」や「十六夜日記」など、中世の日記文学のような味わいがある。きわめて不遜な話だが。
やっぱり「裏庭日記」でいいか。
そんなこんなで、個展のタイトルは「裏庭日記」に決まる。
状況が状況なので、是非来てください!と屈託なく言えないところが複雑ですが、お近くにお住まいの方などいたら、無理のない範囲で来ていただけると嬉しいです。
それでは、「裏庭日記」をよろしくお願いします。